酒木保先生のページ

<プロフィール>

 認知科学をベースとした発達障害治療の第一人者。交通心理学,色彩心理学の領域への貢献も深く,自然科学を意識した「学」としての臨床心理学を追究する。旭川医科大学で心理療法の開発に携わる。心理検査,知能検査を巧みに組み合わせた査定と,そこから導き出す技法は国内外から 注目されている。
 近年は韓国,中国における臨床の指導でも力を注ぎ,中国大連大学で客員教授を勤めながら,日本の心理療法の普及に務める。またNPO法人メンタルヘルス研究所を立ち上げ,独自に開発したプログラムにより,心理学を通して企業のコンサルタントを行っている。著書に『「わたし」をみる・「わたし」をつくる-自己理解の心理学』(川島書店),『自閉症の子どもたち』(PHP新書),『人間科学における個別性と一般性―人間の基盤を求めて』(ナカニシヤ出版)がある。

 

 

 

 

<ひとことメッセージ>

リラックスしながら集中すると,一番,学習が進みます。迷っても立ち止まっても,先生たちが見守っていますので,自分自身を見失わないで,ゆっくり夢に向かってください。心理学の勉強は、まず「楽しい」と思えることから始めましょう。きっと、あなただけのオリジナルが見つかります。疲れたら,お茶を飲みにどうぞ。リラクゼーションの方法をお伝えしています。

 

 

担当科目

(大学)
臨床心理学,カウンセリング論,心理相談,障害発達心理学

(大学院)
心理的アセスメントに関する理論と実践,投影法特論,プレイセラピー演習

 

 

質問コーナー

Q:最近の関心事を教えてください

A:発達障害の子どもたちが,アプローチの仕方によって大きく変化すること。セラピーの中で子どもが自分の力を発揮して大きく伸びるのを見るのが大きな喜びです。

 

Q:先生にとって心理学の魅力とは何ですか?
A:見えるものと見えないものの関係の構造を明確化すること。具体性と抽象性の統合を果たすこと。

 

Q:座右の銘を教えてください
A:「静かな努力」

 

Q:教育の中で大切にしていることは何ですか?
A:教育でも臨床でも,「事実」 これに尽きます。

 

Q:ほっとする時間,場所を教えてください。
A:一日の終わりに書斎で美しい絵本を眺めながら赤ワインを飲んでいる時でしょうか。

 

Q:先生の趣味は何ですか?
A:園芸と植物採集です。野生の蘭を見つけることや,珍しい植物を育てることが好きです。園芸と臨床は似ています。

 

Q:フロンティア大学において気に入っている点は何ですか?
A:少人数教育の徹底です。密に学生と教員が関われることです。キャンパスは静かで,裏山には野生の蘭が生息しています。何より,地元とのつながりが強い。就職率がよいでしょう。

 

Q:最後に学生へのメッセージをお願いします。
A:物事を動かすために知識が必要です。理解のために知識をクリエイティブに構築しましょう。知識をどう使いますか?

 

 

<コラム:子どもの発達>

発達障害という診断

 発達障害と診断された方への対応はなかなか困難であるといわれています。つまり、これはという治療法が確立されていない中で、手探りでこれらの子供と関わっているのが現状です。そこで、私の現在実践していることから、お答えしていきたいと思います。
たとえば発達障害の子どもに対して、心理検査を実施するとき、通常の決まりに沿って、実施しようとすると、ほとんどの場合には途中で集中力が途絶えて、検査の進行が不可能になる場合があります。われわれは検査を何回かに分けて実施することにしている。つまり、集中することが困難となり、その困難さから検査結果が大きくゆがむことがあります。心理検査は、本人の今ある能力を確認して、未来の可能性を導き出すものです。そのために若干の条件を変更しても、正確に取り終えることが子どもを理解する上で、大切となります。これまでの経験ではあまり多くはありませんが、一回で全検査を終えることができたことがあります。当然、下位項目に大きな段差が認められました。われわれは何回かに分けて行っても、一回で行うことができても、あまり時間をおかずに下位項目で低いものは再度行うことにしています。この場合、再度の実施により点数が高くなることがあります。しかし、これが再度実施による練習効果であったとしたなら、この子どもには、学習能力があると見なすことができます。また、検査実施に際して、「これを終えたら好きに遊んでもいいからね。」といって実施した場合に急いで行って、得点が低い場合がありました。つまり、作業制限法の適用では、遊びたい意識が先行してしまい、真剣に検査に取り組むことができない場合があるのです。時間制限法に切り替えて再度実施すると、全くできなかった課題が高得点を示したことがありました。前者では、遊ぶ意識が先行してしまい、検査に取り組むことができなかったのです。作業制限法ならびに時間制限法のいずれで実施した方がよいかを、その子どもの特性に合わせて、決めていかなければなりません。つまり、検査に取り組んだことへの、賞の与え方によって、検査結果が大きく変わることがあるのです。
 われわれは子どもの相談を受けた場合には、以前にどこかの機関で検査を受けている場合には、その検査結果を見せてもらい、再度、同じ検査をすることにしています。検査二回法と称しているのですが、特に得点の低い項目については、得点値が上がる工夫をしています。たとえば、WISCで類似問題が極端に低い子どもがいたとします。通常の実施ではわれわれのところでも、同じ結果でした。そこで、検査とは関係のない動物の玩具を2種類見せて、どのように似ているかを問うたところ、両者の共通点を指摘することができました。それ以降の問題については、握り拳をみせて、こちらが魚、こちらが鯨と示して動かしながら、どのように似ているかを問うたところ、泳ぐと答えたのです。このようにして実施したところ、評価点1だったものが、12まで跳ね上がった事があります。また、数唱問題が全くできない子どもに、紙に書いて順次読みながら、継時的に見せたところ、得点が一挙に上がった子どもがいたのです。つまり、検査を二回とり、低い項目がほんの少しの工夫で、あがることを確認していけば、その確認のための若干の工夫が、発達支援に結びついていくのです。

 

発達障害の子どもへの治療的アプローチ

 われわれは、関係論的精神病理学の立場をとっています。従って、発達障害の子どもと関わる場合には、関わることのできるための、様々な工夫がなされなければなりません。関係論的精神病理学の立場によって、関わりを持つには相手とのよい関係の構築を模索することから始めます。発達障害の子どもは、その障害の故に日常の中において、よく叱られることが多いと思われます。しかし、遊技療法は彼らをほめることができるのです。遊びの中で、彼らのできることをまず探していく必要があります。ほんの少しの工夫を懲らすことによって、ほめることができるのです。たとえば、ドラえもんが好きな子どもには、ドラえもんになってもらうことで、不思議な力が発揮できることがあります。つまりその子どもが一番なじんでいる役割を担うことで、不思議な力を発揮することがあるのです。つまり、子どもの中ですでにモデルができているものを探すのです。モデルができていれば、そのモデルに関わることでつながりがもてます。ドラえもんに教えを請うことで、一生懸命考えて、答えてくれることがあります。そのときは、「よくわかったよ、ありがう。」「よくできたね。」とお礼を言い、よい評価をするのです。やがて、ドラえもんの能力を持って自分自身にかえっていくからです。